ITOMACHI HOTEL 0
Interior/Landscape
Dates: 2021/12-2023/6
Site: Ehime, Japan
Building use: Hotel
Site Area: 4,000㎡
Total Area : 3,000㎡
Planning Operation by GOODTIME INC.
Architecture by: Kengo Kuma Associates
Photo by Yoshiro Masuda
ITOMACHI HOTEL 0 は愛媛県西条市の広大な農地を転用し、地域活性化を目指して動く糸プロジェクトの中のひとつで、日本初のゼロエネルギーホテルである。
この地域は山間部に降った雨が伏流水として集まる地形であることから全国でも稀な自噴地帯を形成し、各地域や家庭でそれぞれ「うちぬき」と呼ばれる自噴井を掘って地下水を使用しているため、日本の市街地では通常整備されるインフラのひとつ、上水道が必要ない。当然このホテルでも使用する水はすべて地下水が利用されている。日本名水100選に選ばれるほどの清冽な水は西条の人々の生活に根付き独自の文化を形成してきた。また全国の名庭の景石として度々目にする「伊予青石」の産地である。緑みを帯びた青色の中に流れるような白縞模様が入った美しい天然石である。この石は加茂川の河畔で見ることができ、川縁に広がる乾いた伊予青石は明るく爽やかなライトトーンの千草色、川底の濡れた伊予青石は深く濃く落ち着いたダークトーンの木賊色をしている。この同じ石がもつ2つの異なるトーンを客室の種類に合わせて使い分け、ホテル棟では千草色を、ヴィラ棟では「木賊色」をカラースキームとした。「うちぬき」「伊予青石」、こうした地域に根付いた文化資源をベースにデザインを展開することで、今後も続く糸プロジェクトを通じてITOMACHI HOTEL 0が西条のシンボルとして地域活性のひとつの足掛りとなることを目指した。
*レセプションカフェ
このホテルは、ホテルのレセプションと飲食提供機能を併設したレセプションカフェ棟、50戸の客室が並ぶホテル棟、7戸の独立した客室があるヴィラ棟の3棟の建物が中庭を囲んで配置されている。
レセプションカフェ棟はホテルのレセプションの他、モーニングからランチ、カフェ&バーまで提供する飲食機能、また糸プロジェクトの取り組みを伝えるインフォメーション機能の役割を持つため、宿泊ゲストだけでなく一般の方も立ち寄りやすい場であることが求められた。
そこでホテルの顔を作りつつ奥に広がるカフェまで視線が抜け、かつスタッフとゲストのコミュニケーションが図りやすいように、レセプション機能とカフェ・バーカウンターが一体となった16mの大きなオープンカウンターを空間の中心に設けた。
カウンターは研ぎ出し仕上とし、地面から浮かび上がるような斑点模様は敷地内から拾い集めた伊予青石をひとつひとつ丁寧に埋め込んでつくっている。すでにそこにあるもの、捨ててしまうものを実際に再利用してつくることで、私たち自身がゼロエネルギーへの取り組みを体現し、窓辺の千草色に染めたグラデーションレースカーテン、吹抜天井に浮かぶ和紙アートワークと相まって、ITOMACHI HOTEL 0の世界観を象徴的に伝える空間とした。
*客室
50戸の客室と研修利用等による中長期滞在が可能なコワーキング&キッチンルームがあり、客室はシングルからファミリー、ビジネス、また瀬戸内に多いサイクリストを受け入れられるよう豊富なバリエーションで構成されている。
全ての客室において、客室入口正面にオープン形式で洗面カウンターを設けた。水場を特徴的につくることで西条の恵まれた水を想起させる仕掛けとした。
また家具や什器、クッションや床タイルなど積極的にサステナブル材を取り入れている。繊維廃棄素材から生まれたSAIBURG社のSTELAPOPやTarkett社の再生プラスチックシート材をテーブルトップに、布製品の規格外品をアップサイクルしたNUNOUS SKINをアートワークに、屋外ベンチの座面にSTUDIO RELIGHT社の廃蛍光管再生ガラス材など、主にゲストが直接手に触れるところにこれらのマテリアルを使用することで、ゼロエネルギーホテルに相応しいインテリア空間の在り方を提案した。
*ヴィラタイプ
天然温泉の露天風呂付きの7戸の客室で構成され、特別な非日常体験を味わうことができる。
客室入口正面にうちぬきを想起させる水場を設け、その腰壁は再生ガラスモザイクタイルで設えた。またリサイクルポリエステルのファブリックをソファの張地に採用するなど、ホテル棟・ヴィラ棟一貫したコンセプトとする一方で、求められるニーズの差によって全く異なる滞在空間をデザインしている。
またヴィラ棟では愛媛県産の質の高い素材を空間のアクセントに使用しており、和紙織物の壁紙や、周桑手すき和紙の障子、砥部焼のオリジナル洗面ボウルなど、地元の素材とリサイクル材を組み合わせながらインテリア空間を形成した。
*ランドスケープ
ランドスケープを計画する上で大きく2つの課題があった。一つ目は農地を埋め立てた土地であるため水はけが悪く植栽の生育への悪影響が懸念されること、二つ目は糸プロジェクトの中にあるホテルとして地域に開かれた場所であることが求められた一方で、ホテルとして一定のセキュリティも必要なことだった。この課題を解決しつつ西条の地域性やゼロエネルギーホテルの役割を踏まえて、ホテルの中庭として居心地の良さを生み出すデザイン計画を行った。
まず中庭全体に緩やかな勾配を形成し、伊予青石の砂利を用いて水みちを確保した。3つの棟に囲まれているため各棟と中庭の間には植栽による緩衝帯を設け、木々を植えるための土壌改良を兼ねたアンジュレーションによってホテル棟・ヴィラ棟との意識的な境界や視線をコントロールし、柑橘系の樹種とともに川のほとりのような見え隠れするシークエンスを形成した。エントランス廻りの舗装はセメント不使用の天然素材のみから成る“つちみちペイブ”を使用し、雨はゆっくりと土へ浸透していく。
さらに中庭の中心には敷地内から湧き出る混じり気のない本物のうちぬきの水に触れられる水景を設けた。うちぬきを見ながらウェルカムドリンクを楽しんでみたり、水の音を聞きながらぽっかりと空いた空を眺めて休憩してみたり、夕暮れにはドリンク片手にバーカウンターに集ってみたり、宿泊ゲスト、地域住民、ホテルスタッフの垣根を越えてコミュニケーションを紡ぐ場所となる。
延々と湧き出るうちぬきは水面を揺らしながら流れ落ち、伊予青石を伝って土に浸透し再び自然に帰る。昔から西条にある当たり前の風景にほんの少しデザインをプラスして唯一無二の心地よさを創造した。
伊予青石の美しい色合いに包まれ、薄霞がかる瀬戸内の風景と一続きとなり、西条に広がる牧歌的で悠々緩々な空間体験をインテリア・ランドスケープにおいて実現した。